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読書メモ

『ブレイクアウト・ネーションズ』ルチマ・シャルマ・著、鈴木立哉・翻訳(早川書房)

 

 

ブレイクアウト・ネーションズ 大停滞を打ち破る新興諸国

ブレイクアウト・ネーションズ 大停滞を打ち破る新興諸国

 

 

【読書メモ】

インド

1. インドの株式市場は、他のどの国よりも、世界の新興市場の平均的な動きと最も連動して上下する

 → インド市場が広く深いため。上場企業は5,000社あり、外国人投資家は1,000社以上に投資。時価総額10億ドル(約1,000億円)を超える企業は150社近い。また、自動車から医薬品まですべてがそろっている。

 → これだけの規模は他に中国市場のみ。でも、外国人に門戸を閉ざしている。

 

2. 著者は、インドがブレイクアウト・ネーションになる確立を50%と見ている

 → 肥大化した政府部門、縁故資本主義、金持ちと権力者が交代する頻度の低下、農民が農村を離れたがらないという憂慮すべき傾向、などのリスクが存在する

 

3. 2003〜2007年まで、インド経済は年率9%近くで成長を続けた。中国に次いで、世界で2番目に高い成長率

 → 2003年に西側諸国の低金利資金が溢れだして、世界的な成長ブームがはじまった

 → 1990年代始めに、シン大臣が行政改革(許認可統治の改革、関税を85%から25%まで引き下げ、インド株式市場を外国人に開放など)をしていたおかげで、成長できる土台ができていた

 

3. インドは(ブラジルも)、高コンテクスト社会(人類学者のエドワード・ホールの言葉)

 → 人々が派手で、うるさく、気軽に約束をしてもそれが常に守られるとは限らず、会合の時間や締め切りの概念についてやや寛大な文化を意味する

 → この社会では家族との結びつきを重視する傾向がある。価値観が深く共有されているので、わざわざ口に出して言わなくても、ほんの短いやり取りだけで多くの物事が進んでしまう。話し言葉はしばしば大げさで、かえって曖昧となり、謝罪は長く形式的になることが多い

 → 歴史や伝統がかなり重んじられ、家族でもビジネスでも、ある一定の集団内に閉じこもりたがるから、汚職や買収に弱い。外国人がインド人の結婚式とかに行けば、大歓迎されて仲間意識を感じるかもしれないが、こうした文化の本当の内側に入るには数十年かかる

 → 著者いわく、インドとブラジルはとても似ている。夕食が遅い、個性豊かな人々の様子、形式張らない立ち居振る舞い、文化的な選択

 

4. 現在のインドでは、ビジネスの決定的な要因が、政府との正しいコネクションがあるかどうか、という段階まで達してしまった

 → 国の汚職度に関連する調査(トランスペアレンシー・インターナショナル)では、2010年インドは88位/178ヶ国中、2007年の78位から後退している

 

5. 最近は、インドでのビジネスの立ち上げコストがかなり高騰していると嘆く、デリーやムンバイのビジネスマンが多い。役人から賄賂を要求される回数が跳ね上がっているらしい。国内の面倒な問題を避けたいから、というのを海外進出の動機にしている会社も多い

 → インドの国内投資は、2008年はGDPの17%だったが、2012年は13%に落ちている

 → インドが8〜9%の成長率を達成するためには、国内投資がもっと必要。外国からの直接投資は、必要な金額に全然達していない

 → でも、インド企業全体の海外事業の寄与度は、2006年は収益全体の2%程度だったが、2012年は10%を超えている。

 → 2010年、インドの3分の1の世帯が、インド基準の「中流」(年間2,000〜4,200ドル)。これは2002年から22%の上昇

 → しかし、現在のインドのトップ50社における利益の半分以上が「外向き」、輸出、世界のコモディティ価格、そして国際的企業買収に依存している

 

6. 新興国が自国に費やすお金が少なすぎる場合のリスクは「インフレ率の急騰」

 → 投資資金が干上がる → 中流層の望む製品供給のために十分な資金がつぎ込めない → 供給が需要に追いつけず値上がりがはじまる

 → ビジネス環境が不安定だと投資は当然反転しない。政府の汚職ほど不安定な要素はない。汚職はインフレ要因。資金を生産的な投資から横にそらせてしまう

 → 2010〜2011年前半のインフレ率は9%、これは2003〜2007年までの好景気の時の5%を上回っている

 

7. 危機を避けるため、インドは人的なコネクションではなく、規則に基づいた社会をつくる必要がある。そうすれば、本来生産的なはずの土地や工場、そして鉱山といった資産を悪の手にゆだねることもなくなる

 → 東アジアが成功した秘密の1つは、日本、韓国、台湾が、公有地の売却について、いずれも比較的公正な制度を作り上げた点にある

 

8. インドでは、とてつもない金持ちが、つねに社会の最上位に不自然なほど大きな層をつくる

 → その原因の一端は、仲間内だけで仕事を回し、経済的な分前を自分たちだけで独占しているという点。また、インドには資産税も相続税もない。トップ富裕層の資産は爆発的に、おそらく他のどの国よりも速いペースで伸びている

 → 2000年には、世界の億万長者トップ100にインド人は0。しかし、2010年は7人で、米国、ロシア、ドイツを除いた、どの国よりも多い

 → こうした情報は、ある国の所得階層や産業全体を見渡したときの成長のバランスをざっくり把握するのに役立つ。経済規模に比べて億万長者が多すぎると、バランスが取れていないことになる。

 → 平均的な億万長者が、10億ドルどころか100億ドルもかき集めるほど不均衡な状態になると、不景気になってもおかしくない(100億ドルを超える新興国はロシア、インド、メキシコのみ)

 → 億万長者が、生産力を生む新たな産業を起こした結果ではなく、政府の支援を得て蓄財しているような場合には、一般大衆の間に不満がたまってもおかしくない(1990年代後半のインドネシアの暴動はこれ)

 → 億万長者も競争にされされ、トップクラスの入れ替えが起きなければおかしい、その出自も、政治家との密接な関係からではなく、生産的な経済セクター出身者が大勢を占めることが望ましい

 

9. 中国の指導者は金持ちの度合いに上限を設けていると見て間違いない

 → 中国は億万長者の入れ替わりが激しい

 → この15年で中国は最も大きな成長を遂げ、莫大な資産を生み出した。しかし、中国の豊かな人間の純資産は90億ドル。これは、経済規模がはるかに小さいメキシコ、ロシア、ナイジェリアといった国の億万長者よりもずっと少ない

 → 中国では、自由なビジネス文化が育っているが、資産額が100億ドルに近づくと、どうも政府は特別に目を光らせはじめるようだ

 → 金持ちに対する怒りを抑えると同時に、政治への影響を食い止めようとしていることは間違いない

 

10. 縁故資本主義は競争を阻害し、経済成長を遅らせる一種のガン

 → 2011年後半、センセックスの構成銘柄30種類のうち27社、つまり90%が2006年から変わっていない。2006年には、この数値は68%だった。一方、ダウ工業株(30社)は、平均して15年ごとに、ほぼ半分が入れ替わっている

 → さらに、センセックスの上位10社は、指数の時価総額の3分の2を占める。一方、ダウ平均の上位10社は、時価総額の2分の1

 → インド企業社会の方が富の集中化が進んでいる

 

11. インドでは、政府支出の半分以上を握る(これは異例の高さ)、地方政府の影響力がとても強い

 → インド人は自分たちを、インド国民というよりは、州の市民とみる傾向が強くなっている。仲間内の定義が、国から州のレベルへとシフトしている。

 → 地方選挙の投票率国政選挙よりも10%も高い

 → インドは個別の個性を持った州の集合体のような体をなしはじめ、国家意識が低下するようになった

 → この国の将来における経済成長の行方はどうなるのか。著者いわく、この判断が難しいのは、地域主義という複雑な問題が絡むため。成長モメンタムの高まる地域と低下する地域が共存しているため、ブレイクアウトネーションとして生き残る可能性は50%としか言いようがない

 

12. 経済活動の中心は、西部の一部と南部地方から、中央部と北部中心部の主な人口密集地域へとシフトしている

 → 1980年代(インドが革命をはじめたとき)、成長率が3から5.5%まで伸び、インド南部のカルナーカタ州やタミル・ナードュ州のハイテクやアウトソース業を中心に発展が進んだ

 → 改革当時、発展している州はそうでない州より所得が26%高かったが、2008年までには86%までに広がっていた

 → 北部で最も大きく、遅れているのがビハール州。この州だけが1980年から2003年までの間に経済が縮小(9%)した。

 → ただし、ここ数年(2010年基準)の北部成長率は、南部を上回っている。2007年と2010年の平均成長率を比較すると、南部諸州が7から6.5%に低下、北部諸州は4.5から6.8%へと加速化

 → 急成長の理由はさまざまな背景が考えられるが、優れた指導者が選ばれている点が最も重要ではないか、という著者の主張

 → 2010年に成長率10%を達成した州は6つあったが、南部の州は1つも含まれていない。リーダーの能力も低下している。この10年間(2010年基準)、カルナーカタ州、アンドラ・プラデーシュ州、タミル・ナードュ州の成長率は低下し続け、以前の二桁成長率のおよそ半分にまで落ち込んでいる

 → 北部と中部の州は、過去10年(2010年基準)の世界中の信用ブームとは無縁だったため、その後の金融危機で傷つくこともなく、新たな事業を起こすだけの借り入れ余地があった

 → また、世界的なコモディティブームも作用した。北部、中部は、石炭と鉄鉱石の豊富な埋蔵量を誇り、インドの新たな製鉄所や発電所の大半が、こうした地域に設立されている

 

ブレイクアウト・ネーションズ 大停滞を打ち破る新興諸国

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