『改訂3版 グロービスMBAクリティカル・シンキング』グロービス経営大学院・著(ダイヤモンド社)
改訂3版 グロービスMBAクリティカル・シンキング (グロービスMBAシリーズ)
- 作者: グロービス経営大学院
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2012/05/25
- メディア: 単行本
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Kindle版 グロービスMBAクリティカル・シンキング[改訂3版]
仮説と検証
「意味のある解釈を引き出す(So what?と自分に問いかける)」にあたって、「仮説を立てて、それを検証する」という考え方が大いに役に立つ
仮説の定義=「あるイシューに対する仮の答え」
→ 何かビジネス上のイシューがあることを前提とする
→ 検証が可能な言葉で表現される必要がある。「検証可能」とは、仮説の意味するところが明確で具体的なこと
仮説を出すという思考は、メインメッセージやキーメッセージをつくる際に行われる
→ たとえば、「A事業から撤退すべきか否か」というイシューに対して、「市場」「競合」「自社」の枠組みで考えているが、ピラミッドストラクチャーの「頂点」であるメインメッセージ、および3つの枠組のキーメッセージにあたる部分に、仮説が入るというイメージ
→ ピラミッドストラクチャーを用いて思考を構造化するには、仮説・検証という作業が密接に絡んでくる
そして、立てた仮説について「この仮説が正しいと言うためには、何を言う必要があるか」という観点から考え、それらの諸点について仮説を裏付けるファクトがあるかどうかを見る。これが「検証」作業
→ 検証にあたって、「この仮説が正しいと言うためには何が必要か」と考える際には、物事の属性によってMECEに切り分け、かつ説明するのに感度の良い切り口を探すという思考が必要になる
→ さらに、より精緻に仮説を進化させていく際には、物事をプロセスで切ったり、モデル式に変換したり、因果関係をとらえたりといった思考を使うことがしばしばある
仮説検証のステップ
①イシューと枠組みから問いを考える
→ たとえば、「A事業から撤退すべきか否か?」が問い
②問いに対して仮説を立てる
→ 演繹法・帰納法を意識してと言うよりは、無意識のうちに両者を組み合わせて仮説を立てている感覚
→ 創造的な仮説を出すためのテクニックには、従来のものの見方、考え方の前提となっていた常識を疑い、わざと違う前提を置いてみたり、あえて前提を否定してみたりといったものがある
→ 帰納的に考える場面でも、「だから何が言えるのか?(So what?)」を繰り返す
③仮説を検証するためのデータを探す
→ 「どの程度ポイントを押さえたら、その仮説はある程度検証されたと言えるか?」という大枠をまずは考えることが大事
→ データから見て仮説が合わない場合は、仮説を修正する。反証になりそうな事実を見落としていないか特に注意が必要
④仮説を進化させる
④−1 帰納的思考をする際に、共通項のくくりをより具体的に絞り込む
→ ビジョナリーカンパニーでは、「際立って優秀な企業」に共通する要素から、「長期にわたって平凡だった企業が、ある転換点の後に急激に飛躍した例」というように、より範囲を絞って優良企業を特定して、共通点を探った
④−2 因果関係を明らかにしていく
→ 上記例では、転換の時期に「第五水準」の指導者に率いられていた、という特徴が共通して見られた。次に浮かぶ疑問は、「どうして第五水準の指導者だと、飛躍を達成できるのだろう?」という因果関係への疑問
仮設をより確度が高くビジネスで使えるものにしていくためには、
→ 「初期の粗い仮説」から、「ざっくり検証→より具体的で詳細な仮説→だいたいの検証→さらに具体的な(行動に結びつく)仮説→緻密な検証」
考える上で仮説を考えることの効果
①行動や意思決定がスピードアップする
②イシューに対する思考が深まり、説得力がアップする
③周囲の物事に対する関心、問題意識が向上し、思考の幅が広がる
→ 「この仮説を検証するには、どのような情報が必要か?」と考えることで、それまで関心や問題意識がなかった分野についても知識を仕入れなければならなくなる
「よい仮説」とは
①新規性・独自性があること
→ たとえば、「グローバルな視点で採用を考えるべきだ」といった仮説では、たしかに間違いではないとしても常識のたぐいであり、付加価値は乏しいと言わざるを得ない
②イシューからの「ずれ」がないこと
③具体的な行動・意思決定に役立つこと
→ 学問的な仮説と違って、ビジネスでは常に何らかの成果が求められる
「よい仮説」をつくるために
①経営に関する知識
→ 2つの分野、a. 経営のフレームワークに関する知識、とb. 「こういうことをしたらこうなった」という企業経営の実例に関する知識
→ 初期化説でいい線をいく確立が高まる。また、検証をするのに、どこを調べれば最も効率的かという優先順位の付け方がうまくなる
②特異点を探知するセンス
→ 特異点とは、「ルールやパターンとは異なる特徴を示す要素やケース」。たとえば、例外的にうまくいったケース、ほかの大多数の場合に収まる範囲を超えた数値など
→ 理論を踏まえて仮説を出してそれを検証するだけでは、たいていの事象は従来からあった理論で説明できてしまい、新奇性・独自性につながらない
→ どうすれば探知できるのか。単純なノウハウはないが、「予期せぬ成功を認める勇気、現実を直視する姿勢、間違っていたと素直に認めるだけの謙虚さ、バイアスを自覚して避けること、特異点に対する好奇心を持つこと 」
③質の高い仮説を目指す志
→ 安易に妥協せず諦めずにスピードと質の両方を追求する姿勢が重要になってくる
→ 「何のために質の高い仮説を目指すのか」という志があるかどうかが極めて重要だと考えられる
検証の注意点
①ファクトを集めすぎてしまう
→ うまく整理できず時間ばかりがたっていく、という状態は避けたい
→ 仮説を支える2〜4の柱があれば十分
②精度を厳しく求めすぎてしまう
→ 初期段階では、7〜8割程度の当たりがつけられれば次のステップに進むという割り切りも必要になってくる
③情報収集の落とし穴
→ アンケートやインタビューでは、回答者には思い出しやすい、アクセスしやすい情報から答えてしまいがちな傾向がある(近日効果、ドラマチック効果)
→ これを避けるために、期間を開けて複数回実施する、対象者の属性をなるべくバラけさせる等が考えられる
④解釈・判断の落とし穴
→ 「先入観、思い込み」が影響してくる
→ 「代表性ヒューリスティック」・・ある事象に中で代表的な属性が現れる確立を課題に見積もってしまうこと。思考をスピーディーに先に進める効果もあるが、本来は気づけた変化や特異点を見落とすことにもつながる
→ 論理展開を可視化して、「隠れた前提を疑う」のは、無意識にとらわれていたヒューリスティックの発見になる
→ 「確証バイアス」・・自分の仮説に沿う情報ばかり評価してしまう
→ 「正常性バイアス」・・意味のある変化や異常値が見えているのに、それまでの文脈を過大評価して、単なる例外ととらえてしまう
⑤肯定的結果が出ることにこだわりすぎてしまう
→ 「立証されないことがわかった」というだけでも、一定の価値はある
仮説検証と企業戦略
→ 具体的な施策に結びつく仮説については、何らかの「実験」によって仮説が正しいかどうかを事前に確認することが望ましい
たとえば、研究開発であれば「この部分の溶接の強度を変えてみたらどうなるか」、コンビニなら「この街のこの区画に出店すればどれだけ売上が上がるか」など
→ しかし、仮説を検証しようとしても、せいぜい関係者へのヒアリングぐらいしかできることが限られる業種、企業規模のところもまだまだ多い
→ 裏を返せば、検証の精度を上げる手法を導入すれば、競争優位になると考えられる。個人の思考力を高めるだけでなく、仮説を立てることを促し、その質を高め、検証の精度を上げる仕組みを組織としていかにつくるかが、競争を勝ち抜くうえで重要。