『使える経営学』杉野幹人・著(東洋経済新報社)
【読書メモ】
限定合理性
経営判断をするときに、最適に合理的な判断はしておらず、必ずしも最適ではないが満足できる水準で判断している、つまり合理性は限定されている、という考え方
経営学の底流を広く流れているものの1つ
経営学が役立たないと言われる理由
1. 経営学の論理が、抽象的だから
2. 経営学の論理が、現実に当てはまらないことがあるから
問題解決のプロセスとは論理を連鎖されるプロセス
たとえば、「給与が増える」→「社員のモチベーションが高まる」→「新しいアイディアが生まれる」→「省エネの新製品が投入される」→「(社会の)電気の使用量が減る」
最終的に望ましい論理の連鎖とは、その組織の周りの環境やその経営資源を前提とする局面での特殊解
特殊解=その組織にテーラーメイドした論理の連鎖
経営持論
=その組織において経験的に得られたもの、その組織の周りやその経営資源などに特化した特殊なもの
経営持論が通用しないのは「新しい局面」
29✕47=1363はすぐわかるが、1363の素因数を問われると難しい。経営持論の論理は、統合されており、その分解が難しい。
経営学が役に立つ理由
1. 新しい局面での問題解決のとき、特殊解を一からつくる必要があるが、経営学の論理がその特殊解の一部と成り得る。少なくとも、手掛かりがないときは、手掛かりの仮説となり得る
2. 新しい局面での問題解決のとき、特殊解を一からつくる必要があるが、経営学の論理は、固執しがちな経営持論への対抗馬的な仮説となり、経営持論に固執してゴーすることにストップをかけ、その経営学の論理を含む、ほかの仮説に目を向けられる(アンラーニングの初期段階)
3. 上記二つを通じて、経営学の論理を使いなじむことで、そもそも、経営学の論理にしても経営持論の論理にしても、最初から特定の論理を特殊解として決め打ちせずに、さまざまな論理をいつでも取り出せる武器としてホットスタンバイしたまま頭の中に用意しておきながらも、それらだけではなく、さまざまな仮説を探索することに耐えられる(アンラーニングの熟練段階)
経営学における四つのアンラーニングの型
1. 役割のアンラーニング
ある手段が、目的Aだけではなく、じつは目的Bにも繋がる
ある手段にとっての目的を特定のものに固執せず考えられるようになる
たとえば、研究開発が、新しい知識の創造という目的(役割)だけでなく、吸収能力(absorptive capasity)を高めるという目的(役割)も考えられる。吸収能力とは、組織外部の知識を取り入れて活用する組織能力。
カルチュアル・ダイバーシティの向上は、組織のクリエイティビティ向上だけでなく、組織内の摩擦も高めてしまう
コンビニの「厳選した場所への出店」という手段は、「他のプレーヤーへの“商圏あり”の周知」という役割もはたしてしまう
破壊的イノベーション(イノベーターのジレンマ)。安くて劣る商品の投入は、「ニッチ市場開拓」だけでなく、「そのニッチ市場で認められるあいだに、既存市場での価値も高めて、将来的には既存市場も攻略してしまう」という役割も持つ
根底には「潜在機能」という考え方がある
2. 選択肢のアンラーニング
ある目的のための手段が、手段Aだけではなく、じつは手段Bもある
ある目的にとっての手段を特定のものに固執せずに考えられるようになる
たとえば、粘着する知識(sticky knowleage)。ベスト・プラクティスの移転を進める手段として、「受け手のやる気」だけでなく、「吸収能力の向上」や「知識の因果の明確化」も考えられる。
3. 条件のアンラーニング
ある手段が、目的につながるには、ある条件が必要となる
ある手段が目的をかなえる条件を特定のものに固執せずに考えられるようになる
4. 関係性のアンラーニング
ある手段が、じつは目的につながらない
ある手段が目的をかなえることを固執せずに考えられるようになる
【目次】
第一章 「経営学は役に立たない」と言われている
第二章 なぜ「経営学は役に立たない」と言われるのか
第三章 経営学は役に立つ
第四章 経営学による「役割」のアンラーニング
第五章 経営学による「選択肢」のアンラーニング
第六章 経営学による「条件」のアンラーニング
第七章 経営学による「関係性」のアンラーニング
第八章 経営学は使い方次第